オーディオのついでに見たヨーロッパの野菜など(2.難しいアルザス・ワインロード)

2013年 小林 正信

※この記事は株式会社産直新聞社が発行する「産直コペル」に連載したものです。

2.難しいアルザス・ワインロード


 その後、スピーカーの所有者の運転で国境を越えてフランスに入り、オーディオ機器の自作で有名なクライン氏の家まで送ってもらった。ピュトランジェというドイツ国境に近い田舎町で金属加工会社を経営するクライン氏とは同年齢で、共に50歳ちょっとという、人生において道楽を最高に楽しめる季節の真っ只中にいる。クライン氏とLPレコード盤のプレーヤーの共同開発や、新しいリスニングルームの構想についての議論に熱中した後は、同氏おなじみのホテルでムール貝の夕食をいただいた。30cmほどある大鍋に数百個ものムール貝が山盛りに入った莫大な夕食で、アルザスの白ワインとバターにニンニクやエシャロットが効いた煮汁は涙が出るほどおいしかったが、クライン氏に「おいしいからパンを浸して全部飲め」と言われても無理だった。デザートも直径20cmほどの巨大なクリームブリュレで、破れそうな胃袋をさすりながら同氏に「おやすみ」を言った。

自作の大型スピーカーの間に立つヨーロッパで有名なオーディオ愛好家のクライン氏
自作の大型スピーカーの間に立つヨーロッパで有名なオーディオ愛好家のクライン氏

 翌日はクライン氏の愛車BMW製X3クリーン・ディーゼルに乗せてもらってストラスブール側から「アルザス・ワインロード」を通過し、ナンシー駅まで行ってフランスの誇る新幹線TGVに乗る予定で出かけた。ところが、「アルザス・ワインロード」を辿ることは予想外に困難で、途中で引き返すことになってしまった。なにしろ、宿場間の道路は塩尻のブドウ畑の間にある農作業用の道路と大差ない程度の細い道で、しょっちゅう交差点で曲がるのに標識がろくにない。おまけにフランスのカーナビは日本のより低性能で不親切なので、2つ目の宿場街に向かう途中で迷ったころには、「これは2~3日かけないと通過できない」と悟るに至った。クライン氏も近くのお気に入りの街を散発的に訪れるだけで、ルートをすべて辿ったことはないそうだ。こんな不親切な観光ルートは日本では考えられないが、訪れた街々は日曜日ということもあって観光客でごった返しており、「まあ、看板だらけの観光地よりもいいか」と思い直しながら美しい木造建築の間を散策した。
 道に迷ったあげく、夕方の1本しかないマルセイユ行きのTGVに乗り遅れそうで、名物料理の「シュークルート」を食べることもできずにストラスブール側へと戻ったので、アルザスの農業について書けないことをお詫びする。ぎりぎりで駅にたどり着いてTGVに乗り込むちょうどそのとき、駅前でお礼もそこそこに別れたクライン氏から「電車は大丈夫か?」という電話が入った。大慌てで乗ったTGVだが、なんだか判らないトラブルで遅れにおくれ、結局マルセイユに着いたのは翌日の未明になってしまった。

アルザス・ワインロードにある宿場街。歴史を感じさせる古い街並みなのに暗くなく華やかだ
アルザス・ワインロードにある宿場街。歴史を感じさせる古い街並みなのに暗くなく華やかだ